幻覚

泣き顔でスマイル擦り切れてシャイン踊るならレイン

 

 

好きという言葉が軽くなった。そのくせに「ポケモンが好きだったころのあの気持ちを忘れたくないよね」と同期と話した。あのころの、胸が焦げるくらいの好きはだんだんなくなって、夏の日差しが月の光に変わるくらいに穏やかになった。子供のころ好きだったものを話しているときだけみんな子供に戻る。瞳に夏の日差しが戻ってくる。今は自分の瞼に月がある。おかげで眠れない夜が減った。

昼の海より夜の海に行きたいと思うようになったから、もう大人なのかな。

昼の喧騒より夜の穏やかさに惹かれるようになった。今は白より黒が好きで、ミニスカよりロンスカが好き。ミルクよりビター。

みんな苦しい夜を迎えてる。いろんな思いをしてる。人も街も少しずつ変わってゆく。変わってほしくないものまで巻き込んで。風には逆らえず、波にも逆らえず大人になる。

このブログをやっていたこと、大学の友達、大好きだった曲、数学の公式、英単語、付き合っていた人、もう会えなくなってしまった人、着なくなった服、恨んでいたこと、よくわかんないけど全部が過去になるのが怖いなって。今は全部今がいい。今を今として生きたい。ずっとこんなことを思って、思い続けて、夏

 

 

 

1月最後の月は赤かった。もう0時を過ぎたから、過去の話だ。月がきれいだからなんだというのだ。月がきれいでもそうじゃなくてもずっとつらいまま。言えない言葉ばかりがインターネットの中で増えてゆく。行き場のないあいうえお。ABCだって書けるけど、そういう、ノートの中の無意味な走り書きみたいに毎日をなんとなくやり過ごしている。思春期の自分のほうがよっぽど素直だった、と思う。よく覚えていないけど。

出来事を覚えるよりに先に毎日が過ぎていってしまう。なんとか続いている数行ずつの日記は異国から届く手紙のように、いつも数日更新が遅れている。画面の中の華奢な体が全身で歌っている。「ゆるやかな坂道に消える君を見つめていた」…

わたしの耳によく馴染んだ曲たちは昼よりも夜中のほうがよく似合っている。

昼よりは夜が好き。あしたもがんばる。

雪が溶けたら会いに行きたかったけど、それももうかなわないのかな。最近の東京は急速冷凍されたような厳しい寒さ。自分も凍ってしまいそうになります。ってそんなことわたしに言われなくても思ってるよね。お互い東京にいるもんね。東京という駅、東京という都はあるけれど東京という地名はなくて。だから東京が具体的にどこを指すのかわからないのにみんな東京東京と言っていてなんだか面白いよねってこの前友達と話したの。その日も雪が降ってもおかしくないくらい寒い日だった。雪が降っていなかったから電車も動いたし、今日会えてよかったってわたしは言った。そういう風にあなたとも話せたらよかったのにと思ってる。あなたと一緒に見た風景をわたしはできるだけ思い出さないようにしてる。忘れるようにするって結構疲れるんだよ。気づいたら忘れてたみたいになりたいのにさ。会いたいと思ってないくせにあなたが気まぐれで寄越してくるだけのLINEについ返事してしまう自分が心の底から嫌になる。忘れたいのにね。ここは東京なのに、ひと晩で京都になんて行けるわけもなかった。もう会えないのに忘れさせてはくれないからさ、いつかきみがわたしの心からいなくなったらさ、堂々と自分からLINE送ってさ、胸を張ってきみに会いに行くよ。

前のデスクでたくさんの言葉が飛び交っている。窓越しに見る空は晴れているけれど、たぶん外は寒いんだろう。平成史上最強の寒波が来たって世の中は普通に動いていて、周りの人も普通に生きていた。大雪の日はあのまま氷河期がきて東京が氷漬けになってしまうんじゃないかと割と本気で思ったけれど、それでも世界は続いていくらしい。「雪ひどかったけど、ちゃんと家に帰れた?」と、挨拶程度の心配をされて、わたしは今日も生きている。

電車の中でふと思うこと

ネットの中のどんな言葉も自分を救ってはくれない。寒いなと思ったところで家の暖房は壊れてなにもしてくれないし、自慢できる友達はいるけれど自分にとって親友ってなんなんだろうと思っている。友達がいるのかいないのか分からなくなってしまった。わたしのこと友達って思ってますか?そういえば、いつも乗ってる電車のアナウンスの音が変わった。部署の場所が移動になった。ここにいる人たちは毎日なにを考えて働いているんだろう。気が狂ったりしないんだろうか。考えると狂っちゃうから、なにも考えないようにしてるのかもね。わたしも考えることが怖くなった。そうやって大人になってくのかな。でも、いつの日か脳が思考を完全にやめたとしても、感じ取ることはやめずにいたい。そういうささいな変化を見逃さずにいたい。それがせめてもの大人になっていく自分への、世の中への抵抗のような気がする。大人になってしまう。成人式なんてただの行事だけのはずだった。それだけだったのに。振袖と袴を脱いだら大人になってしまう。卒業式なんてただの行事だけのはずなのにな。成人式に出たからって大人にはなれなかった。嘘を言うことに傷つかなくなったら大人になるの?みんなどうやって大人になっていくの

 

身を切るような寒さに襲われる。どこかに行きたいけどどこに行きたいのかもわからないし誰と行きたいのかもわからない。ひとりが好きだけど嫌いだ。孤独を愛しているけど誰よりも孤独を怖がっている。そういえばそんな人が周りにはたくさん…いて隠すのが下手な人たちばかりだ。寂しさを隠したって寂しくなるだけだった。雨も日差しも寒さも暑さもぜんぶ消えてなくなればいいと思った。明日も明後日も来なければいい。明日のことを考えるだけで息が苦しい。誰も知らない所に行きたい。知らない電車に乗って、知らない道を通って、知らない街の、知らない人の人生を窓の中から垣間見たい。多分病気で車は運転できない。診察券やポイントカードと一緒に免許証は埋もれている。2年前の自分が真顔でこちらを見ている。この日も今日みたいにすごく体調が悪かったっけ。その翌日、君は遠いところへ行ったんだよ。ごめんね。何もかもわからなくなっちゃった。